運動を開始すると同時に換気と心拍は急増する。本研究では運動開始20秒以内の呼吸応答と循環応答の関連性を明らかにするために、1)顔面冷却法を用いて副交感神経系を亢進させて循環系の出力を変化させた時の運動開始直後の呼吸・循環応答を明らかにすることで、呼吸応答と循環応答の類似性・独自性を検討すること、2)これまで蓄積してきた男性被検者群のデータ(高齢者、こども、一般成人)に加え、女性、鍛錬者(特に短距離選手)の運動開始直後の換気、心拍、血圧応答を測定し、それらのデータを総合して各応答間の相関を求め、換気応答と循環応答の関連性を検討することを目的として2種類の実験を行った。 その結果、1)の実験から、顔面冷却によって運動開始時の心拍応答が抑制されると換気応答も抑制されるが、その抑制の程度は両者で相関がないことが明らかとなった。これは呼吸応答と循環応答の出力システムがかなり異なっていることが原因と考えられる。また、2)の実験から、運動開始時の換気応答と心拍応答の大きさは相関が高いことから、両者は類似した変化を示すことが明らかとなった。これは換気応答、心拍応答を引き起こす中枢への神経入力経路が同一であることが主要因と考えられる。しかし、同じ循環機能の血圧は換気や心拍とは異なった応答を示すが、これは血圧が脳への血流維持といった生命維持が重要な役割であり、換気や心拍とは異なったメカニズムで調節されているからと考えられる。 以上のことから、運動開始直後の呼吸機能と循環機能は、同じ入力系によって互いに協調し合って運動時の酸素摂取システムを維持・亢進するために類似した変化を示すが、一方で、生命維持のために異なる出力系を持ち、互いに独立して応答していることが明らかとなった。このように、呼吸と循環は、運動開始時にはお互い「類似性」を持ちながらも「独自性」を持って変化しているというのが本研究の結論である。
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