研究概要 |
運動時における過度の体温上昇は運動パフォーマンスに影響を及ぼすことが考えられ,運動時においては体外へ熱を放散する体温調節反応がより重要となる.体温調節反応は運動トレーニングによって改善されることが知られているが,改善に関するメカニズムには不明な点が多く残されている.運動トレーニングが体温調節反応を改善するメカニズムを明らかにできれば,適切な運度トレーニングを構築する上で重要な知見となる.そこで,本年度では末梢での熱放散反応を調節している皮膚交感神経と各熱放散反応(発汗反応と皮膚血流反応)との関係を明らかにすることを目的とした. 健康な男子学生8名を対象に,環境温25℃,相対湿度50%の環境制御室内で約50分間の仰臥位姿勢で安静を保持する.その間に全身の皮膚表面の温度を調節する循環スーツを着用した.このスーツの内部にはチューブが通っており,チューブの中へ湯を流すことによって皮膚の温度を調節した.測定機器装着後,皮膚温を38℃に上昇させ,さらに安静を60分間保持した.測定項目は腓骨神経より皮膚交感神経を,足の甲より発汗量と皮膚血流量を測定した.これら以外の測定項目は心拍数,血圧,体温(舌下温)および全身8箇所の皮膚温である.測定した交感神経活動と発汗量および皮膚血流量の関係を分析し,両者の間には因果関係が認められ,特に,発汗が開始し,初期に急増する区間では皮膚交感神経活動が大きくなった.また,深部体温が大きく上昇した区間では,皮膚交感神経活動の頻度が多くなる傾向が認められた.皮膚交感神経活動と皮膚血流量反応との対応関係も発汗反応のそれと類似しており,深部体温の上昇に伴う皮膚交感神経活動は発汗量と皮膚血流量の両者を引き起こしていることが示唆された.以上のことから,この方法により,熱放散反応を神経活動の観点から検討できることが明らかとなった.
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