研究概要 |
運動時のおける過度の体温上昇は運動のパフォーマンスに影響を及ぼすことから,運動においては体内で発生した熱を体外に放散する体温調節機構が重要となる.体温調節反応は運動トレーニングにより改善されることが知られているが,改善に関するメカニズムには不明な点が残されている.このメカニズムを明らかにできれば,適切な運動トレーニングを構築することが可能となる.そこで,本研究は末梢での熱放散反応を調節している皮膚交感神経活動と熱放散反応との対応関係から体温調節反応に対する運動トレーニング効果を明らかにしようとした. 平成13年度では健康な男子学生8名に対して循環スーツを用いて深部体温(食道温)を約1.0℃上昇させる外的温熱を負荷した.このときに腓骨神経より皮膚交感神経活動を記録し,さらに,この神経が支配している部位の発汗量と皮膚血流量を同時に測定した.この結果,食道温と皮膚交感神経活動,発汗量および皮膚血流量の間には高い有意な正の相関関係が認められた.また,皮膚交感神経活動と発汗量および皮膚血流量との間にも正の相関関係が認められ,皮膚交感神経活動と発汗量の相関係数は皮膚血流量のそれより有意に高かった. 平成14年度では健康な男子学生3名に連続10日間の運動トレーニングを実施し,トレーニング前後で,平成13年度と同様な評価を行った.運動トレーニングは60%VO2_<max>の自転車運動を30分間×3セット,環境温23℃(50%)の条件下で実施した.運動トレーニングにより,食道温と各反応との対抗関係はいずれも左方へシフトした.また,皮膚交感神経活動と発汗量および皮膚血流量との対応関係も左方にシフトし,トレーニング後では同一皮膚交感神経活動で比較すると発汗量および皮膚血流量は多くなった. これらのことから,運動トレーニングにより皮膚交感神経活動と熱放散反応との対応関係は変化し,少ない活動で多くの熱放散反応を引き起こすように末梢での調節機構が変容している可能性が考えられた.
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