研究概要 |
本年度は2つの実験を行った.実験1では,疲労困憊に至る筋収縮によって起る筋小胞体(SR)のCa^<2+>-ATPase活性の低下の要因が,タンパクの酸化にあるか否かについて検討することを目的とした.最大酸素摂取量の100%に相当する強度で,ラットに疲労困憊に至るまで走行運動を行わせ,腓腹筋表層部および外側広筋表層部を対象に生化学的分析を行い,以下の結果を得た. 1.運動により,Ca^<2+>-ATPase活性に16%,SR Ca^<2+>取り込み速度に34%の低下が認められた. 2.運動により,Ca<2+>-ATPaseタンパクに含まれるカルボニルグループの量が,2倍以上増加することが観察された. 以上の結果から,タンパクが酸化されることが,筋活動に起因して生ずるCa^<2+>-ATPase活性の低下の成因の1つであることが示唆された. 実験2では,収縮のどの場面において,抗酸化剤がSRの機能の低下に対して影響するのかについて検討することを目的とした.ラットの横隔膜をコントロール(C)群と,実験(E)群の2群に分け,C群は通常のリンガー液中で,それに対してE群は10mMのN-acetylcysteineを含むリンガー液中で電気刺激によって収縮を行わせ,以下の結果を得た. 1.張力は両群ともに漸減したが,収縮開始30秒後以降C群と比較しE群で高値が認められた. 2.Ca^<2+>取り込み速度は,刺激開始30秒および60秒後においてのみ,C群と比較してE群において高値が観察された. 以上の結果から,抗酸化剤は収縮の早期の場面において,SRを酸化から保護する作用を持つことが示唆された.
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