研究概要 |
抗酸化剤であるN-acetylcysteine(NAC)が,収縮を継続して行うことに伴う筋の発揮張力の低下,いわゆる「筋疲労」を軽減する効果を持つことが知られている.本研究では,この筋疲労軽減効果が筋小胞体(sarcoplasmic reticulum ; SR)の機能の変化を介して起こっているのか否かについて検討した.Wistar系ラットの横隔膜をコントロール(C)群と実験(E)群に分け,これらをさらに電気刺激による筋収縮を0秒,60秒,120秒,180秒あるいは300秒間負荷する群に細分した.C群は通常のリンガー液中に,E群は10mMのNACを含むリンガー液中に1時間置いた後,電気刺激を与えた.刺激頻度は30Hz,1回の刺激時間は350msecであり,この刺激を2秒に1回負荷し続けた.刺激中は,継続的に張力を計測した.刺激終了後,筋をホモジナイズし,得られた抽出液からSRの機能を測定し,以下の結果を得た. 1.刺激開始後の張力は常にC群よりE群において高く,刺激開始60秒以降両群間に有意な差異が認められた. 2.SR Ca^<2+>取り込み速度,SR Ca^<2+>放出速度およびSR Ca^<2+>-ATPase活性は,刺激開始前と比較すると300秒間の刺激後では,C群,E群ともに有意な低値が観察された. 3.SR Ca^<2+>取り込み速度,SR Ca^<2+>放出速度およびSR Ca^<2+>-ATPase活性は,刺激開始300秒後ではC群とE群との間に統計的に有意な違いは認められなかった. 4.SR Ca^<2+>取り込み速度およびSR Ca^<2+>-ATPase活性は,刺激開始60秒,120秒および180秒後において,C群よりE群において高値が認められた. 5.SR^+放出速度は,刺激開始120秒および180秒後において,C群よりE群において高値が認められた. 以上の結果から,予め筋線維の抗酸化能力を高めておくことによる筋疲労軽減効果に,疲労中期ではSRの機能の変化が関与していることが示唆された.
|