本研究では、弱刺激と強刺激の2つの刺激を40msecの刺激間時間で連続呈示し、そのときの反応時間を測定した。この実験設定では、先行刺激が後続刺激によってマスクされ、先行刺激の知覚が損なわれる。これを逆向マスキングというが、この現象下の反応時間をみると、その反応が先行刺激に対するものであることが推定できる。したがって、先行刺激の知覚ができないにもかかわらず反応はその先行刺激に対して行われていることが推察される。本研究は、このような現象から運動反応と知覚体験の関連性を検討しようとしたものである。 今年度は、脳波事象関連電位を記録しlateralized readiness potential(LRP)を求め、運動野活動の開始時点を推定し、他方、P300から刺激評価の完了時点を推定し、両者のデータからマスキング下の情報処理過程の時間的推移を検討した。本研究では体性感覚を取り上げているが、視覚による逆向マスキング実験も並行して進めている。現在までに分析が終了したデータは視覚実験の結果で、体性感覚に関しては、現在、分析を進めているところである。視覚実験の結果から、刺激呈示から求めたLRP潜時が反応時間と強い関連性があったこと、また、LRPの立ち上がりから反応動作までの時間(いわゆる運動関連脳電位の動作肢対側電位の立ち上がり潜時)は反応時間とはほとんど関連していなかったことがわかった。これは、先行刺激が運動準備過程の短縮ではなく早期化を促したことを示している。しかし、この早期化現象が、先行刺激による知覚過程の促進によるものなのか、運動準備過程の早期駆動化なのかは不明である。この点については、さらにP300を効率的に生じさせるodd-ball課題を用いて検討する必要があり、現在、その実験を行っているところである。 なお、反応時間のみによる検討結果については、最近、Human Movement Scienceに論文として掲載された。
|