本研究では、逆向マスキング・パラダイム(2つの連続刺激の呈示)を用いた反応時間課題において、その刺激強度および刺激間時間を変化させることによりマスキング効果の大きさを操作し、知覚体験の有無と反応時間の関連性からその背景にある脳内情報処理過程を検討した。行動的側面では、先行刺激の知覚体験を2区間強制選択課題で、運動反応を単純反応時間で評価し、さらに脳波の測定から偏側性運動準備電位LRPを用いて評価した。これらの各指標から、無意識的な知覚(マスクされる先行刺激)及び意識的知覚(自覚的に知覚される後続刺激)のそれぞれの条件下における運動準備過程を検討し、知覚と反応に関わる各情報処理の時間関係及び無意識的知覚と運動反応に関する脳内情報処理に言及した。 一連の実験では、逆向マスキング・パラダイム下での反応時間、先行刺激検出の正答率、偏側性運動準備電位LRPの分析から、刺激からのLRP潜時と反応時間にはある程度の関連性があるが、LRPから反応開始までの時間については反応時間との関連性は認められなかった。したがって、先行刺激が反応準備過程を早期化していることが明らかとなったが、先行刺激が知覚過程の情報処理を促進したのか、運動準備過程の早期トリガーとなったのかについては、今後の課題として残された。また、先行刺激の検出に関しては、先行刺激と後続刺激の刺激間隔SOAを32msと短くすると検出ができなくなり、SOA-100msでは80%程度の検出率を示し先行刺激が確実に検出されていた。したがってSOA-32msでは先行刺激がわからなかったはずであるが、LRPの立ち上がりは先行刺激のみの条件のものとほとんど変わらなかった。この結果から、検出できなかった先行刺激が運動準備過程を促進していたものと推察された。 これらの研究成果は、国内、海外の学会で発表するとともに、論文、総説論文などでも発表した。
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