研究概要 |
1.上気道感染症罹患に対する運動と唾液分泌型免疫グロブリンA(sIgA)の影響 大学生8名(21〜22歳)と一般成人32名(33〜58歳)に上気道感染症の罹患状況と運動や生活習慣に関して4ヶ月間継続してアンケート調査を行った.上気道感染症罹患群と非罹患群との比較では,運動習慣や生活習慣に有意な差を認めなかった.大学生8名については継続的に唾液sIgAを測定し,上気道感染症罹患時期にsIgAが低下する例が2例あった. 2.高強度運動による唾液中感染防御因子の変動 マラソン後に上気道感染症の罹患率が増加する一因として唾液中sIgAの低下が考えられているが,十分に解明されたわけではない.上気道感染症の1/3はrhinovirusが原因であり,、そのレセプターはIntercellular adhesion molecule 1(ICAM-1)である.可溶性ICAM-1(sICAM-1)は,細胞膜ICAM-1とrhinovirusとの結合を阻害して感染防御作用を示す.そこで,男子大学生14名を対象に,42kmのフルマラソンの前日,直後,1日後に唾液を採取し,sICAM-1濃度を測定した.唾液中のICAM-1濃度は,マラソン前日が4.2±5.0ng/ml,直後が7.1±4.6ng/ml,1日後が3.5±2.9ng/mlとマラソン直後に上昇し,1日後にはマラソン前日のレベルにもどった.フルマラソン後には,rhinovirusに対する感染防御能の低下を引き起こすような唾液中sICAM-1濃度の低下は観察されなかった. 3.運動による唾液sIgA低下のメカニズム sIgAの産生は、唾液腺上皮細胞でのpolyimmunoglobulin receptor (pIgR)の発現量によって調節されている.Northern blottingによりpIgRのmRNA発現量を検出するため,プローブを作成した.マウス唾液腺より抽出した全RNAからcDNAを作成し、PCR法により増幅して,pCR2.1 T0P0ベクターを用いてクローニングした後、制限酵素によりpIgRのcDNAを抽出した。
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