研究概要 |
長時間におよぶ過激なスポーツが心臓の障害となることを我々は報告してきた(Musha H, et al.: Curr Ther Res 1997;58:587-593.、Nagashima J, et al.: Int J Sports Cardiol 1999;8:77-82.)。本年度は、心臓利尿ペプチドと心筋障害の指標である心筋トロポニンTとの関連において、過激な運動ストレスとなる100kmマラソンにおける心筋障害の発生を検討した。対象は、サロマ湖100kmマラソン参加の健常男性10名であり、100km走行前後における心臓利尿ペプチド(Atrial natriuretic peptide ; ANPおよびBrain natriutetic peptide ; BNP)と心筋障害に特異性の高い心筋トロポニンT (TnT)を測定した。100km走行により、ANPは走行前6.8±3.3fmol/mlから走行後13.5±7.3fmol/ml、BNPは3.38±2.9fmol/mlから18.88±13.3fmol/ml、TnTは走行前0.1ng/ml以下から走行後1.38±1.1ng/mlへ有意の増加を認めた。100kmマラソンにおけるANPおよびBNPの増加量とTnTの増加量の相関は、ANP vs TnTでr=0.64、p<0.05、BNP vs TnTではr=0.75、p=0.01と心臓利尿ペプチドの増加量と心筋トロポニンTの増加量との間に高い相関を認めた。運動時における心臓利尿ペプチドの反応は、短時間の症候限界負荷試験では、ANPの増加は認めるもののBNPの有意の増加は健常者においては認められないとする報告が多い。本来健常者の運動においては上昇を認めないBNPと心筋障害の特異的マーカーであるTnTの増加量において正の相関関係を認めたことは、BNPの増加がスポーツによる心筋障害に伴って生じた可能性示している。
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