ラットを用いた実験によると毎日、決まった時間での運動や、暑熱の繰り返しによって、生体はそれを記憶し、熱放散反応や運動の遂行に都合のよい機転をとるという。本研究はヒトについて、(1)運動パフォーマンスや体温調節反応が、日内リズムや性周期リズムにいかに修飾されるか、(2)一日一定の時間帯に繰り返し運動すると、その時間帯に運動パフォーマンスや体温調節反応が向上・亢進するか、(3)短期に記憶された暑熱馴化は、一時的な寒冷刺激で、体温調節反応はいかなる影響を受けるか等について検討した。一日決まった時間帯に繰り返し運動させると、その運動前に比べその後では、運動時の直腸温の変化分(ΔT_<re>)や発汗量(m_<sw>)は、有意に減少したものの、時間帯による差は観察されなかった。しかし前腕部m_<sw>や皮膚血流量(Q_<sk>)が増加し始める時間は、繰り返し運動後、午後の時間帯のそれは、午前の時間帯より有意に短縮、あるいは短縮傾向を示し、決まった時間の運動のトレーニングは体温調節反応を亢進させることが示唆された。また、毎日同一時間帯に運動鍛錬された被験者は、午後におけるAT及びVo_2maxの方が午前中に比べ有意に低下した。一日一定の時間帯に運動を繰り返すとその時間帯に合わせて運動パフォーマンスが増加するという当初の予想に反する結果を得た。これは赤血球数(RB)や、Hcなど血液粘性抵抗を反映する成分が、午前に比べ午後の時間帯に増加したことによると考えられ、サーカディアンリズムに脱水の影響が大きく関与しているものと推察した。今後さらに運動鍛錬期間や環境温度との関連を究明する必要と思われる。この研究の成果は、学校スポーツなど毎日一定の時間に練習を繰り返す様な際に、時間帯が異なる時に試合を行う時に、高い運動パフォーマンを得る上で示唆有用な示唆を与えた。
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