運動開始時の素早い循環調節や持久力を支える活動筋血流調節は上位中枢からのセントラルコマンドと活動筋からの反射によって行われる。循環調節に対する上位中枢の効果についての研究は反射調節に比べて少ない。本研究では運動時循環調節に重要な働きをする筋交感神経活動(MSA)を微小電極法を用いて直接観察し、運動時の循環調節に意志や意欲と言った上位中枢がどのような影響を与えるのか明らかにする。第一に握力運動を用いた2分間の最大努力握力と最大握力の3分の1握力発揮時のMSAを比較した。最大努力運動では早い段階からMSAが高まり、運動の意志や努力の大きさが直接MSAを高める可能性を確かめた。第二に、利き腕、非利き腕をトレーニング、非トレーニングモデルとして用い、2分間の最大努力握力運動時のMSAを比較した。右利き被験者では、利き腕(右手)運動時のMSAが高くなったが、左利き被験者では非利き腕(右手)運動時のMSAがより高まり、利き腕に関係なく右手運動でMSAが高まった。これは運動時のMSA調節が大脳半球性に異なる可能性を示唆する。2分間の運動は中枢だけでなく活動筋からの反射が大きく働くため、この効果の少ない15秒間の短時間の繰り返し全力握力について左右比較を行ったところ、右利き、左利き被験者とも利き腕運動時のMSAが高くなる傾向がみられた。さらに、1月間の非利き腕筋力トレーニング前後で比較検討した結果、トレーニング後のMSAはトレーニング側が非トレーニング側運動時に比べて高くなる傾向を認めた。これらの結果から運動時の中枢性循環調節はトレーニングによって変わりうる可能性が示唆される。
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