運動は大量の酸素を消費するため、これに必要な酸素を如何に早く、そして大量に供給するかは運動継続に不可欠である。心臓循環系はその中心となり、この調節には大脳からの中枢指令(セントラルコマンド)と活動筋からの反射が関係する。活動筋からの反射による循環調節は身体トレーニングによって変ることは多く報告されているが、セントラルコマンドの影響については明らかではない。本研究では、利き腕をトレーニング側と仮定し、非利き腕運動との比較から中枢性心循環調節を検討した。 1.筋交感神経活動は左右側運動で異なり、利き腕運動で高くなった。これは利き腕の日常の頻回使用による結果と考えられ、利き腕がトレーニングモデルとして神経性循環調節の研究に有用であるこが確かめられた。 2.運動開始前から開始直後の筋交感神経活動と活動筋血流を連続的に観察した結果、運動前には筋交感神経活動が抑制され筋血流の上昇傾向が観察された。中枢性の循環調節は交感神経を介して運動開始前から筋血流を高める可能性が示された。 3.非利き腕を用い4週間のレジスタンストレーニングを行い、その前後で15秒間の随意最大握力運動時の筋交感神経活動を比較した。この結果、運動時の交感神経活動はトレーニング後に高まり、利き腕と非利き腕運動時の交感神経活動の差はみられなくなった。トレーニングにともなう交感神経活動の亢進は筋力の増加よりセントラルコマンドの増強による可能性が大きいことが示唆された。 4.副交感神経の関与が大きい運動開始時の心拍増加を利き腕、非利き腕運動について比較した結果、非利き腕運動の心拍増加は利き腕運動より低かったが、レジスタンストレーニング後、非利き腕運動の心拍上昇が大きくなり、両側の差はみられなくなった。 以上の結果から、セントラルコマンド(中枢性)による循環調節が身体トレーニングによって変わり得る可能性が確かめられた。
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