重力環境に適した生態が無重力環境下でどのような適応を示すかについては、数多くの研究がなされ、実験動物では抗重力筋であるヒラメ筋の萎縮が顕著であり、その筋を構成している筋線維の中では遅筋線維の占める割合が減少し、逆に速筋線維が増加するという報告がある。しかし女性ホルモンであるエストロゲンが、特定の環境下で骨格筋に対してどのように作用するかを総合的に解明した報告は少ない。動物の雌雄比較の先行研究からエストロゲンは、若齢期においては成長の抑制に働くが、模擬無重力下では筋萎縮を予防し、老齢期においては動環境下でも、模擬無重力下でも筋萎縮を予防していることが想定される。これは、エストロゲンの抗酸化作用によって、成長や老化あるいは無重力環境など体内外の環境変化に対して骨格筋が恒常性を維持していると考えられる。またエストロゲンは脂肪の蓄積に働くので持久性を高める作用があると考えられる。そこで本年度は、成体ラットの卵巣を摘出し、循環エストロゲンの減少させた後に重力環境下で持久性運動トレーニングを課して形態の変化と筋ダメージの指標であるクレアチンキナーゼ活性を解析した。体重は、卵巣摘出により増加したが、持久性トレーニングを負荷すると減少し、ヒラメ筋と長指伸筋の筋重量は卵巣摘出後も持久性トレーニング後も有意な変化を示さなかった。血中クレアチンキナーゼ濃度は、卵巣摘出後に上昇したが、持久性トレーニングを行うとその上昇は抑制されたことを認め、新たな知見を得た。ホモジネートした筋を電気泳動法(SDS-PAGE)を用い、収縮タンパク質であるミオシン重鎖と軽鎖およびアクチンを分離させ、その分離画像をスキャナーにより分子量を同定した。
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