重力環境に適した生態が無重力環境下でどのような適応を示すかについては、数多くの研究がなされかるが、女性ホルモンであるエストロゲンの特定の環境下での骨格筋に対する作用の報告は少ない。そこで本研究は、重力および無重力環境下でエストロゲンが成体ラットの骨格筋に及ぼす影響を調べることを目的とした。第一に、後肢無重力環境における骨格筋の適応を調べた。尾懸垂による短期間の後肢無重力環境において、遅筋のヒラメ筋は抗重力筋なので尾懸垂1週間後から筋重量が有意に低下し、筋原線維タンパク質量が減少するが、速筋の長指伸筋にはそのような変化がみられず、筋による適応の違いを明らかにした。そこで成体ラットの卵巣を摘出して循環エストロゲンを減少させる実験モデルを用いて、ヒラメ筋と長指伸筋の適応の比較検討をした。第二の実験は、卵巣摘出後に重力環境下で7週間の持久性走運動トレーニングを施した。体重は、卵巣摘出後に増加したが、トレーニングを負荷すると減少し、筋ダメージの指標である血清クレアチンキナーゼ(CK)活性値は、卵巣摘出後に上昇したが、トレーニンによりその上昇は抑制された。ヒラメ筋では、卵巣摘出すると体重あたりの筋重量が減少し、トレーニングによりSO線維とFOG線維の中間(INT)線維の組成比率が増加した。一方、長指伸筋では、卵巣摘出によりFG線維が増加したが、トレーニングにより筋重量の増加とFOG線維の増加が認められ新たな知見を得た。第三の実験は、卵巣摘出後に後肢無重力環境である尾懸垂を2週間施した。卵巣摘出後に増加した体重は、尾懸垂後には有意に減少し、筋重量は、ヒラメ筋も長指伸筋も尾懸垂により減少した。筋線維組成比率では、ヒラメ筋の尾懸垂後のSO線維の減少が認められた。そして長指伸筋では、卵巣摘出後のSO線維の著しい減少と卵巣摘出後および尾懸垂後のFOG線維の増加が認められ新たな知見を得た。
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