若年女性32人を対象に、臥位から立位に受動的に姿勢変換させ、10分間静止立位を保持させた時の起立耐性能と大腿最大筋力、最大酸素摂取量及び体格との関係を検討した。起立耐性能は血圧・心拍数の臥位時に対する立位時の%変化によって評価した。起立性低血圧は起立時の上半身から下半身への血液移動によって惹起される。そこで、胸部血液量の指標である胸部インピーダンスの変化によって、立位時の胸部血液量の減少が著しかった群(減少群)17人、胸部血液量が姿勢変換直後に一旦は減少するが1分以降には回復傾向にあった群(回復群)10人と胸部血液量の変化が軽度だった(軽度群)5人の3群に被験者を分けて解析した。体格と大腿筋力において回復群は他群に比べて大きい傾向にあった。臥位時の血圧には3群間で有意差はなかった。 立位時では、回復群の最低血圧は他群に比べて変化度が有意に小さく臥位時より低下した。平均血圧も同様な傾向があった。一方、大腿筋力は、立位時の最低血圧、平均血圧の変化度と負相関があり、最大筋力の大きい者では臥位時より血圧が低下する傾向にあった。最大酸素摂取量は立位時の血圧変化と関連はなかった。 以上の結果から、10分間の起立負荷時の血圧変化は、姿勢変換後1分以内に起きる胸部血液量の変化に依存することが示唆された。大腿筋力の大きい者の殆どは回復群に分類され、姿勢変換直後の胸部への血液還流に筋力が大きいことが有利に働くことが示唆された。しかし、静止立位を保持した場合には、このことが低圧受容体を介する血圧調節に影響して、静止立位時の血圧下降の原因になると考えられた。今後、筋力の影響が強い能動的、且つ短時間の姿勢変換における血圧調節と大腿筋力の関係を検討する予定である。また、大腿筋力が小さい者の中にも大きい者と同様の変化を起こす者がいたので、姿勢変換時の胸部血液量変化に影響する要因を更に追求する必要がある。
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