研究概要 |
浸水時には、若年者の心臓迷走神経活動が亢進することから上位中枢が浸水の影響を受けている可能性が高いと考えられる.そこで覚醒周波数帯域における浸水時の影響を仰臥位で検討した.対象者は,健常成人男性4名及び健常成人女性2名であった.年齢は,25.5±2.7歳,体重は63.6±6.6Kg,体脂肪率は22.2±5.5%であった.対象者に研究の趣旨,結果の成果について説明し実験への参加の同意を得た.実験中は,閉眼消灯とした.ベッドに仰臥位で5分間の安静を保ち,その後水槽に移動し,浮き具を用いて仰臥位フローティングを10分間行った(浸水条件).一方対照条件として,異なる日の同時刻に浸水無し条件(陸上条件)を行った.着衣は水着のみとした.室温は30℃とし,水温は35℃とした.脳波の日内変動を考慮し,測定は午後1時から午後5時とした.脳波は,前頭部(CZ),から単極誘導し,オフラインで高速フーリエ変換(FFT)し,パワースペクトル(分解能0.1Hz)を求めた.スムージング処理としてハニングウインドウ処理を施してから5区間を単純加算平均した.心拍数は,胸部双曲誘導から導出した.心拍数は陸上条件と浸水条件に有意な差はみられなかった.浸水条件における覚醒脳波周波数帯域α1(8-11Hz)の増加率は,陸上条件よりも5.5%高く,逆にα2(11-13Hz)の増加率は8.6%低い値を示した.α1は,精神活動の水準が低い状態,α2は活発な精神活動状態と関連が深いことが報告されていることから,精神活動水準が低下した可能性が考えられた.この知見は,αの帯域の高い周波数成分と低い周波数成分が拮抗関係にあるとする先行研究と一致した.同時に浸水時は,感覚遮断が生じた可能性も考えられた。今回得られた知見は,浸水が覚醒水準に影響を及ぼす可能性が高いことを示唆するものであると考えられた.
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