本研究は、社会指標を用いてヨーロッパの地域間格差の実態とその変化を解明することを目的とし、とくに本年度は、おもに社会指標としてのデータおよび文献の収集と整理、専門研究者との討論を行った。具体的な作業は、20世紀初頭におけるオーストリア・ハンガリー帝国の社会指標として、住民の健康状態、衛生水準、教育水準、余暇活動(観光)に関する統計データを、オーストリア・ウィーンの統計局を中心にして収集した。その際、とくに市郡別のデータおよび主要都市別のデータに重点を置いた。また、今年度はヨーロッパの近代化と、「生活の質」に関する文献の収集(オーストリア国立図書館)、さらに専門研究者との情報交換(オーストリア国立東ヨーロッパ研究所)をも行なった。大学の諸事情により、予定していた期間の現地調査ができなかったが、インターネットによる情報収集でいくらか補足した。 収集したデータは、目下整理・分析中である。データをいくらか操作した結果、たとえば中央ヨーロッパでは、首都など大都市を中心にした生活の質の整備が進み、都市と農村の格差がかなり拡大している状況が推察された。また、保養地のように都市からのイノベーションが伝播しやすい場所では、都市規摸が小さくても、生活の質にかかわる環境の整備が非常に早いとの推察が得られた。具体的な保養地を事例にして取り上げ、その発達過程を明らかにすることによって、地域間格差の実態を明瞭にすることができると考えられる。さらに、都市間にもかなりの格差があることが予想される。ウィーンやプラハなどは、早くから基盤整備が進められ、周辺農村の生活水準もある程度高まっている。一方、レンベルクやチェルノヴィッツなど僻遠の地域の都市は、基盤整備が遅れている。都市間の比較により、広い空間での地域間格差を読み取ることができるであろう。
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