この研究は、社会指標を用いてヨーロッパの地域間格差の実態とその変化を解明することを目的とした。とくに19世紀後半のヨーロッパでは、産業化や都市化など近代化による地域の変化が著しく、現在ある地域間格差のベースはこの時期に形成されたと考えられる。そこで、中央・東ヨーロッパにおいて、「生活の質」の地域間格差と、当時の「近代化」という地域変化のプロセスとのかかわりを明らかにすることを課題にした。 まず、東ヨーロッパに関する地域研究の視角について論じた。ヨーロッパ研究を行ううえで、東ヨーロッパという地域が西ヨーロッパとは対立する概念とされてきた歴史的背景を踏まえるべきであること、東ヨーロッパでは政治改革後、人々の生活の質は大きく変わっているものの、地域間の格差という点では歴史的な連続性がみられることなどを論じた。 また、社会指標として住民の健康状態に着目し、19世紀後半の近代化の時期における地域間較差を、北イタリアの南チロル地方を事例にして検討した。 社会指標が地理学研究にいかなる有効性をもつのか、といった点についても考察した。具体的には、とくに地域のアメニティに関する議論にかかわる社会指標の意味について論じた。 さらに、そうした生活の質と地域変化の関係について、ハンガリーにおけるドイツ系住民の生活と地域変化との関係を事例にして論じた。 2年間の研究補助金の助成期間には、中央・東ヨーロッパにおける社会指標に関するデータおよび地域間格差に関する文献の収集、ハンガリーにおけるドイツ系集団を対象にした現地調査、さらには中央・東ヨーロッパの地域間格差をめぐる外国の研究者との討論に多くの時間を費やした。この地域における地域間格差の歴史的な変化については、ドイツ語圏の研究者の間でも十分な分析がなされておらず、積極的な意見交換ができたのは収穫であった。
|