今年度は現地調査としては、昨年度までで未調査となっていた熊本県の八代海沿岸の干拓による開墾地に関する調査を中心として、大分県荻町の開墾地開発に重要な役割を果たした幹線水路や大谷溜池の確認および宮崎県都農町と川南町におけるこれまでの調査の補充調査を行った。熊本県における調査では、県営干拓地であったため県広報による新開地への入植の募集が、情報の流布に大きな役割を果たしたことや県による入植者の資格設定があったため、他の開墾地と異なり入植者の経済的な基盤が比較的整っていたことなどの、当時の状況が聞取り調査によりほぼ明らかにできた。また、県下からの入植者のみであったことによる文化的摩擦が少なかったことや干拓による新開地であったためホスト社会との軋轢もなかったことなど干拓地の特殊性および入植者のなかで指導者にも恵まれたことが現在の活況の基礎となったことが明らかにできた。 宮崎県都農町の三日月原地区で昨年発見した開墾地移住期の国勢調査に関連する住民リストに記載されていた出身地情報が、聞き取り調査によりある程度信頼できるものであることが確認でき、四国方面からの移住者が多いことが判明したことは大きな成果であった。 さらに、昨年度に引き続き開墾地への入植農民の日記の筆耕作業と整理を行うとともに、当時の状況を知る資料として新聞記事の収集や関係文献の収集にも力を注いだ。 3カ年間の研究のまとめとして、九州を中心とした明治期から昭和前期における農地開発の概要と九州における開墾地移住の具体例、開拓農民の日記のデータを整理した資料および開墾地移住と開墾地移住奨励金に関する資料等からなる報告書を作成した。
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