以下の5地域において、ため池の多目的利用実現の要因を分析した結果、都市化が進展して農業用水需要が少ない地域では、行政の積極的なため池の保全と活用の意思があれば多目的利用は実現するが、農業用水需要の多い地域では農業水利権の厳格な保証が実現の第1要件であることが明らかになった。 (1)愛知県三好町:治水、水上スポーツ、親水公園、大規模農業用水の中間貯留という多くの利用が実現した要因は、都市化に伴う農業用水需要の激減、愛知用水の有効活用のためのため池の保全、境川の総合治水事業の施策としてのため池の活用である。(2)愛知県名古屋市緑区扇川流域:多くのため池を名古屋市が積極的に洪水調整池として活用し、他の校庭貯留施設、防災調整池、貯留管等の治水施設と組み合わせて、治水対策を行っている。この要因は都市化により農業用水需要がほとんど消滅したこと扇川および本川の天白川の水害頻度の高さである。要因分析の他に、平成12年9月の東海豪雨時におけるため池のよる治水効果についても分析した。(3)愛媛県大西町:農業用水の需要度が高いため池を町営親水公園として活用できた要因は、降水量の少ない当地において、節水の概念の下に、農業用水の水利権を最優先させることを、町と農業者との間で厳格な協定書を締結することによって確約できたことである。(4)兵庫県春日町:農業用ため池を商業用釣り堀と併用する利用が実現した要因は、当該ため池の容量が大きく、農業用水需要を上回っていることと、協定を釣り堀業者と農業用水利用者との間で取り交わし、渇水時には農業用水を優先させていることである。(5)兵庫県柏原町:農業用水の需要度合いが高いため池を町営親水公園として活用できた要因は、用水利用者とその家族も含めた地域住民が、町のアドバイスを得ながら、主体的に親水公園の計画を立案し、その計画に基づいた建設がされたことである。
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