日本において、ため池は瀬戸内海沿岸や近畿、北九州に多く分布し、農業用水供給面で、まだ重要な役割を果たしている。しかし、ため池を取り巻く環境が大きく変化する中で、ため池の決壊による危険や地震時のため池の損傷・決壊の危険および水質汚濁、維持管理の粗放化等の問題が顕在化している。 一方、ため池には洪水調節、気温緩和、親水等の多面的機能があり、これらの機能の活用はため池の保全上、有効である。そこで、本研究では、ため池の多面的機能を活用した多目的利用の事例を分析し、その利用が実現した要因とその活用の有効性を明らかにした。 具体的には洪水調節池、親水公園、カヌー・ボート等の競技場としてため池を活用している事例について分析した。結論として、次の3点をあげる。まず、ため池の多目的利用を実現させる最大の要因は、ため池の農業水利権者と新たな目的の利用者との間の利害調整特に水利権者への補償がうまく行われることである。次に、多目的利用の実現には、利用の大前提となるため池の安全性確保のための全面改修工事と多目的利用のための工事を行える地方自治体の財力が重要なことである。さらに、洪水調節については、愛知県の事例分析から東海豪雨時の効果を指摘できた。
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