筆者は町村営電気事業が集中した岐阜県に注目し、長年、調査研究に取り組んできたが、資料収集が不十分だったため、十分に目的を達成することが出来なかった。そこで本科学研究費の研究期間においては、1)全国レベルで町村営電気事業に関する資料の発掘と収集に務めるつつも、町村営電気事業の集中地域であった岐阜県における町村営電気事業の発達の要因をさらに明らかにすること、2)町村営電気の成立を支えた地域的条件を明らかにすることに焦点を絞って、研究を進めた。 岐阜県における電気事業の展開過程を分析過程において、自力で村営電気を営めた地域と営めなかった地域をどのように捉えるのかということが問題として浮上した。すなわち、電力資本の「横暴」に対応してでも電灯の導入が図らざるを得なかった地域と、自ら町村営電気を設立していわば自治的に電力供給体制が形成された地域との相違点である。前者は自力で電力供給システムの構築が困難であったがために、電力資本の「横暴」に従わざるを得なかったが、後者は、電力資本の供給対象地域から除外されていたとしても、結果的には自ら電力供給システムを形成すること成功し、しかも電気事業経営による利益は一般財源として、財政力強化に大きく寄与した。 これまでの町村営電気事業は、需要密度の疎散な地域の電灯会社は単位当たりの需要に対する投資効率の低さから、大企業の駆逐も受けずに、その結果、分散、小規模のまま、山間の村営電気が非能率のまま、いつまでも取り残されていたと位置付けられ、いわば町村営電気開業地域の後進性の視点から捉えられていた。明知町や駄知町のような先進型も存在するものの、岐阜県の町村営電気の多くは岐阜県平均より遅いグループの中に多く存在し、この点において岐阜県の町村営電気の目立った特色は表れてこない。とはいえ、岐阜県の町村営電気の中においても、先進性を有したものと、地域の後進性を補ったものの存在のあることが判明し、岐阜県における町村営電気事業の地域的性格の一側面が析出されたことは特筆してもよい。 事例として取り上げた飛騨地方で最も遅く電灯が導入された宮村における村営電気は、豊かな地域財産と村民の寄付金によって成立した。宮村が飛騨地方で最も遅く電灯が導入されたことから、村営電気そのものの後進性は否めないものの、地域の財政力と自治力で村営電気が成立していたことに大きな意義が見出せた。
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