本研究プロジェクトの目的は、機械工業・金属加工業・合成樹脂加工業などの基盤的産業に属する企業が集積する地域を対象として、イノベーション形成メカニズムにおける地域の役割を明らかにしようとすることにある。本年度は、長野県諏訪地方、伊那地方、上田地方、山梨県などにおける中小企業や中小企業支援機関へのヒヤリングを行い、イノベーション形成の事例収集に努めた。ヒヤリングの成果はメモに取りまとめてあるが、その多くは公表できるレベルにまで整理しきれていない。 しかし、別掲の論文にまとめたように、1960年代から70年代にかけて進行したNC工作機械の普及プロセスが、諏訪地方に立地する中小企業によるイノベーショシ形成に、小さくない意味を持っていたことが判明した。特に、次のような事実が特筆される。第1に、中小企業だけでなしに大手や中堅企業も含めた研究会が1970年代初めに設立されたが、これに長野県精密工業試験場がイニシャチブを発揮した。第2に、個別企業の経験によって蓄積されたNC工作機械に関する暗黙知が、研究会活動を通じて「コード化された知識」に変換した。第3に、その研究会に参加した中小企業の中には、新しいNC工作機械の開発と普及に大きな役割を果たしたものがあった。第4に、研究会活動は名目上、長野県全域をカバーしていたが、実質的に諏訪地方と上伊那地方に立地する企業を中心とするものであり、地域が学習活動の展開に小さくない意味を持っていた。しかし第5に、新しい知識の供給源は、上記地域内に限られていなかった。
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