本年度は、中央自動車道沿線の産業集積地域の中から、長野県飯田市、茅野市、山梨県上野原町に立地する企業、および中小企業支援策について関係自治体にヒヤリングを行った。その結果、各地域において独自のイノベーション力を持つ企業は、われわれによるこれまでの別の場所でのヒヤリング結果と同様に、各地域内部に存在するネットワークよりもむしろ、地域外部にある企業とのネットワークを利用してイノベーションを生み出してきたことが明らかとなった。しかし他方で、それらイノベーション力のある企業は地域の経済振興に熱心であり、地方自治体ないしその関連機関の担当者との交流が深く、新しい地域内ネットワークの形成に熱心であることが多い。そのイノベーションの中には、プロダクトというよりもプロセスに関わるものが多いし、中にはソフトウェアのイノベーションもある。 このような地域現場の実態からすると、経済産業省による産業クラスター計画には、地域現場の実情を無視した机上の空論的な部分があるといえる。産業クラスターとは、本来、最終製品の生産と市場への提供のために、生産連鎖でつながる分業体系のことを意味する。この分業態体系は、例えば時間距離2時間程度の空間の中で完結するというものでは通常ない。それにもかかわらず、各企業は、自己が位置している地域というものをかなり明確に意識しており、ここにアイデンティティを抱いている。そして各地域の中小企業の多くは、新しいプロダクトのための新しい工法を生み出すという意味でイノベーションを引き起こすことが少なくない。このような実態からすれば、プロダクト・イノベーションこそ重要であり、地域なるものはフェース・ツー・フェースでコンタクトできる範囲であれば、その物理的距離はどのようにでも伸び縮みするという産業クラスター計画の理論家たちの考え方は、机上の空論といわざるを得ない。
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