本年度は、植民地期に作成された朝鮮半島の地籍資料(地籍図・土地台帳など)について、昨年度の基礎的な調査・研究を踏まえて、地籍資料を用いた当時の都市・農村の変容に関する資料収集および現地調査を行った。 まず第一に、昨年度も調査を行った韓国・木浦市と、済州道西帰浦市、南済州郡に、研究協力者の山元(中部大学・非常動講師)とともに8月19日〜29日の日程で赴き、市庁・郡庁に保存されていた地籍資料の閲覧を行った。木浦市においては木浦文化院の金貞燮氏に補足的なインタビューを行った。西帰浦市、南済州郡においては、植民地期に日本人が多く転入した西帰浦市西洪洞周辺と南済州郡法還里、城山里を調査対象地域とし、その地域の地籍図を複写するとともに、土地台帳データをコンピュータに入力した。特にこの土地台帳データについては整理・分析を進め、戦後までを含めたこの地域の変容(日本人の活動・韓国人の村落間の移動)が明らかになった。この成果の一部は山元が「日本統治時代の朝鮮半島における日本本土出身者の展開-土地所有との関わりを中心に-」として学術雑誌『歴史知里学』212号に発表した。 第二に、地籍資料から見られた地域の変容(日本人の活動・韓国人の村落間の移動)の裏付けをすべく、上記の出張時に、渋谷と山元(研究協力者)が済州道西帰浦市西洪洞、南済州郡城山里において、予備的な現地調査を行った。これによって、当時の日本人の居住地や、戦後の変化が明らかになった。 第三に、研究分担者の河原は、戦前期の済州島を中心とする日本人の漁民や、缶詰工場などの加工業者の活動について主に日本側の資料に基づいて検討を進め、3月に長崎県壱岐に赴き、当時済州島に居住した日本人にインタビュー調査を実施した。これにより、地籍資料にあらわれた土地所有者のライフ・ヒストリーが一部明らかになり、戦前期の在朝日本人の姿が具体的に把握できた。
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