研究概要 |
本研究の主な目的は,中部日本の山岳地域において,最終氷期には広く分布したものの,現在は分布を縮小し,遺存的に点在している植生(遺存植生)を見いだし,分布図にまとめることにある.平成14年度は,野外調査として,最終氷期の埋没針葉樹林の実態調査,最終氷期の主要樹木であるチョウセンゴヨウの生態的役割の検討を主に行い,同時に文献レビューで,遺存植生の分布を知るための基礎資料として,最終氷期における針広混交林の分布を整理し,分布図を作成した. 十和田八戸テフラ直下の埋没林から復元した晩氷期におけるトウヒ属バラモミ節,トドマツ,グイマツの分布立地を検討したところ,この3樹種は林床の蘚苔類分布と対応して分布立地を分けていた.現在の分布と比較すると,トドマツはより広い分布立地を示した.このことは,遺存植生の分布を知る場合,種間関係が重要であることを示す.そのことを踏まえ,最終氷期に優勢に分布していたチョウセンゴヨウについて,最終氷期の本州における針広混交林の成立にはたす生態的役割を調査した.この樹種は,落葉広葉樹の分布を制限すると共にトウヒ属樹木の分布域を拡大する方向に作用し,針広混交林の成立に大きな生態的役割を果たしていた.そのほか,野外調査として,森林植生における蘚苔類の多様性成立機構を検討し,環境変化に伴う種の分布変遷の基礎情報を得た.最終氷期におけるチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林の分布を文献資料などから整理したところ,沿岸域ではカエデ類などの落葉広葉樹と,内陸の山岳域ではエゾマツなどの針葉樹と混交する森林が分布していた.こうした分布を踏まえることで,現在の遺存植生の分布をより確実に把握することが可能である.
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