研究概要 |
本研究は,中国大陸上における梅雨前線擾乱(降水帯)の形成・維持プロセスの解明を目的とし,(1)長江流域に多降水をもたらす擾乱の形成に関連したチベット高原東側下層に現れる低温気塊について,(2)華南に降水帯を形成する要因として熱帯アジアからの影響について,(3)降水帯の維持に関して低緯度循環と中高緯度循環との相互作用についての解析を行う.平成13年度は第1の研究目的であるチベット高原東側の大気下層に現れる低温気塊の形成プロセスについて解析を行った.まず,チベット高原東側の大気下層に現れる低温気塊に対応して長江流域に擾乱(降水域)が出現した事例から,低温気塊の領域を熱帯降雨観測衛星(TRMM)が観測している事例を選出した.選出された事例について,気象庁客観解析資料などを用いて,出現した低温気塊を中心とする領域における大気場の解析を行った.その結果,チベット高原東側から東進しつつある低温気塊の前面(東側)の温度傾度の大きな領域においてそれほど発達していない対流性の降水域が認められるが,低温気塊の中心部近くには,どの高度においてもほとんど降水が認められない.また,隆水域は低温気塊の空間的な広がりと比べてかなり狭い範囲に限定されている.低温気塊の出現メカニズムを解明する際に,想定される要因の1つとして上空における降水粒子の蒸発に伴う空気の冷却があげられるが,解析結果からはその可能性は示唆されなかった.しかし,解析事例においては降水強度分布が得られた領域は低温気塊全体をカバーしておらず,さらに多数事例から低温気塊とその周辺の降水分布構造を明らかにする必要がある.
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