研究概要 |
四国の室戸岬付近には炭酸塩生物骨格よりなる完新世石灰岩がみられる.もし,この炭酸塩骨格を有する生物が生息していた時代と水深が決定されれば,この付近のネオテクトニクスを解明することができる.そこで本年度は,室戸岬の目洗池から,この北北西12kmに位置する鹿岡鼻の夫婦岩に至る海岸の45地点で採取した石灰岩より,94枚の岩石薄片を作製した.これらの石灰岩は斑れい岩や四万十層群の砂岩,頁岩等よりなる岩礁に付着した小規模な岩体で,その大きさは最大でも,直径5m,厚さ60cm程度である.薄片観察の結果,石灰岩の枠組み(フレーム)の形成者として最も多くみられるのはヤッコカンザシとサンゴモで,以下,被覆性底生有孔虫,造礁サンゴ,フジツボ,イワノカワ科の藻類(石灰藻),カキがこの順で続くことが確認された.これらの枠組みの間隙は,生砕物および非石灰質砕屑物によって充填されており,生砕物としては,上記の生物の破片以外に,軟体動物の破片,底生有孔虫,貝形虫,ウニ,有節サンゴモ等が認められた.セメントは極めて稀に認められるが,その形状は非常に特異である. 上記の炭酸塩岩が形成された水深を特定するためには,本州・四国・九州一帯の温帯岩礁性海岸における生物種の分布に関する知見を集積し,比較検討する作業が不可欠である.このためにはわれわれ自身による現生生物の調査とともに,データベースの構築が必要と思われ,これは次年度に解決すべき課題と考えている. 本年度は石灰岩に関する上記調査に加えて,木研究遂行のための補助的調査として,室戸半島の定常的地盤運動を捉えるための精密水準測量の準備も行った。
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