研究概要 |
採取時期を考慮したオーストラリア産羊毛繊維(海外共同研究者より送付)から試料布20種類を試作した.内訳は,織布9種類,編布11種類であり,構成するメリノ種羊毛の繊維クリンプ頻度と曲率および繊維直径のファクターの布の性能に及ぼす影響を比較検討できるように配慮して試作した.また,布生産時に排出される端ゴミのリサイクルわたも調達した.試料布の通気特性,諸力学量をKES-FBシステム計測機(計測機自動処理システムの改良)を用いて測定した.データ検討のため,オーストラリアニューサウスウェールズ大学のRonald Postle教授と討議した(香港往復).繊維形状や糸構造と布の構造の評価は,力学量計測以前の問題として,表面観察画像の類型化や画像パターンの数量化により布のソフト化を評価する方向も示され,官能検査と表面観察映像-画像処理を用いた方法の連結で布特性を記述する評価法開発の基礎を提供した.繊維直径やクリンプ状態の布表面画像の解析は今後に待たれる.力学量の比較検討から,繊維経が超ファインではなく18から20μmの生産上経済効率の高いメリノ羊毛繊維でも,低クリンプ繊維の採取利用によって試料の中でも織布のソフト化コントロールが可能であることが確かめられた.羊毛繊維利用のもう一つの側面である熱,水分,空気の移動特性については,繊維経および繊維集合状態をモデルを用いて数量的に評価した.(1)比較的太い羊毛繊維を含むリサイクルわた(布生産時に算出される端ゴミ)の熱コンダクタンス,通気特性を評価した.(2)熱コンダクタンスは布の構成繊維直径に依存しないが,比通気抵抗は繊維が太いほど小さいことから,今回の低クリンプ,低曲率メリノ羊毛の利用用途は,このあたりも考慮するとさらに有効である.また,羊毛topから紡績時の糸密度,撚りなどの制御により,同じ繊維であっても布の性質を変えられる可能性を見出した.
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