本研究は、少子高齢社会において、豊かな高齢期を過ごすために、高齢者の生活形態はいかにあるべきかを考究するものである。日本においては、老後の生活形態として「老親子同居」モデルが考えられてきた。また、同居志向、同居意識も高いレベルにあるとされてきた。現実には、同居率は低下傾向にあり、すでに、65歳以人口の53%が老親子別居である(2002)。同時に、同居意識にも変化がみられるものの、未だに「老親子別居」のモデル形成には至っていない。 本研究では、これまでの佐賀県における高齢者の生活実態調査をふまえて、(1)老親子同居を実現するための諸条件を明らかにする(説明する)、(2)老親子別居を実現するための条件・可能性を探る、ことが目的である。(1)については、すでに論文を発表しており、本研究期間においては、(2)について研究を深めたいと考えた。そのために、以下の2つの比較研究を行った。 「親孝行」の倫理観が強いとされる韓国において、韓国統計庁の統計・世論調査の翻訳・分析と、高齢者福祉施設の視察を行った。韓国においては、子どもに老親扶養義務があり、親孝行意識も高いことを確認したが、その生活実態は、同居率は49%と、日本と同程度である(2000)。しかし、別居子は老親の生活費の援助を高い割合でしており、日本とは異なる親子関係がみられた。高齢者福祉施設は、施設数及び入所者数とも増加している。老人ホームは生活保護受給者のみの入所である。在宅高齢者の多くが「敬老堂」で日中を過ごすが、この敬老堂は、地域の高齢者生活支援として機能的なシステムであることを確認した。 アルゼンチンにおける日本人移住者の生活実態の一端を、アンケート調査と現地視察により明らかにした。移住者は、亜国の慣習に従って夫婦家族制をとっており、高齢期は老親子別居である。また、同居志向は無く、「近居が望ましい」という意識傾向にあった。しかし、老親と別居子の面会頻度は高く、生活支援関係も強くみられる。 韓国高齢者の生活や、亜国日本人移住者の生活は、日本における同居志向の変化の可能性と、別居モデルを、是とする説明に説得力をもつと考える。
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