| 研究概要 |
ヒトは,数千〜1万に及ぶ異なる匂いの弁別が可能であると言われている。Buck and Axcel (1991年)は,匂い弁別(認識)の多様性が嗅覚系入力側の多様な匂いリセプター分子群(ラットやマウスで1.000,ヒトで700〜800)の存在にあるとした。一方,我々は,官能検査法を基盤としながら,匂い弁別の多様性は出力側にも存在するとのデータを示した(総説,官能検査学会誌,2001)。本研究の目的は,嗅覚系の出力側(匂い知覚と匂い応答反応)に立脚した「匂いを感じる仕組み」の解明にある。
我々の官能検査法の特色は,13の形容詞対から構成される官能検査シートの各印象項目のスコア変化を基盤としながら,匂い知覚を13の印象項目を横軸とする「官能スペクトル」で視覚化すると共に,印象項目のスコア変化やスペクトル変化を統計学的に意味付けした点にある。リナロールは3種類の光学異性体をもつが,平成13年度では,リナロールとその3種類の光学活性について官能スペクトルと脳波計測データに基づき,匂い知覚は匂いを嗅ぐ際の作業等の「状況」に強く依存して出力されることを明らかにした(Analytical Chemistry,2001)。平成15年度では,本手法について再現性検証実験を実施した(県立広島女子大生活科学部紀要,2003)。一方,匂い応答反応については,これらの成果に立脚しながら行った。平成13年度は皮膚温度計測法の開発を主眼とし,マルチチャンネル皮膚温度計測プロトコール(積算温度曲線を用いる手法)を完成させた(アロマリサーチ,2001)。平成14年度は,皮膚温度計と簡易脳波計を組み合わせてたマルチ計測法の開発に着手し,平成15年度には恒温(20℃)・恒湿(60%)条件下の計測法に発展させた(Anal.Sci.,2003)。広汎な精油についての匂い応答反応の研究成果(平成15年度)と上記匂い知覚の研究成果に立脚し,「匂いを感じる仕組み」の解明に努めているところである。
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