酵素を利用した染色廃水処理を検討する目的で、衣料用染料の酵素による脱色実験を行なった。染料としては、10種のアントラキノン染料および8種のアゾ染料の市販品を用いた。酵素としては銅フタロシアニン染料を効率よく分解する糸状菌ミロテシウムベルカリア由来のビリルビンオキシダーゼ(BOと略す)を用いた。 アントラキノン染料については、染料水溶液にBO酵素を添加し、紫外及び可視部吸収スペクトルを測定したところ、10種すべての染料が効率よく脱色した。C. I. Acid. Blue.40(A. B.40と略す)については染料を精製し、この水溶液に酵素を添加し40℃に保ち、一定時間経過後の試料を採取し、酵素を除いた後にHPLC分析を行なったところ、A. B.40は酵素が添加されると直ぐに分解が始まり、分解化合物ピークBを生成しながら脱色が進んでいくことがわかった。保持時間5.2分付近に出現したピークB由来の分解化合物は、酵素添加後から約3時間で最大量となり幾分減りながらも24時間後も比較的大きなピークとして存在していた。フォトダイオードアレイ分析によりこの分解化合物の吸収スペクトルが確認できた。アゾ染料についても同様に、8種それぞれの染料水溶液にBO酵素を添加し、一定時間恒温振とう後に試料液を抜き取りBOを除去し、吸収スペクトル測定とHPLC分析を行う方法によりBOの脱色効果を検討した。BO添加後の染料水溶液の変色具合は、染料によって異なり、供試染料水溶液が濃色から薄い色へと変化したものや、全く色相が変わったもの等があった。これらについて供試染料水溶液の極大吸収波長における吸光度変化からBO添加後24時間の脱色率を計算した場合には6種については90〜98%であったが、色相が変化したC. I. Direct Black 22とC. I. Direct Violet 48の2種は約40%と低い値となった。しかしながらこれら2種についても同時に実施したHPLC分析の結果から、BO添加後24時間で染料由来のピーク高が90%以上減少したことが明らかになった。以上、本研究では、糸状菌ミロテシウムベルカリア由来の酵素ビリルビンオキシーダーゼが、代表的な衣料用染料であるアントラキノン染料およびアゾ染料を効率よく分解することが明らかになった。
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