本研究は衣服に対する主観的であいまいな着心地を客観的に定量化するための方法を確立することを目的としている。リモートセンシング技術を用いた着心地のダイナミックスな計測法の確立と評価システムの開発を行い、それによる衣服内環境の長期的な連続モニタリングによるデータの収集、解析後、それらの情報を着心地情報に変換し、衣服の着用者に着心地改善のための必要な情報を発信する。 まず応答性の高い湿度センサの開発および改良を行い、日常生活における衣服内環境の連続的な変化を計測する可能性、およびリモートモニタリングシステムについて検討した。次に衣服の通気抵抗を変化させたときの衣服内温湿度を数時間単位で連続モニタリングし、着衣量や気温の変化に伴う衣服内環境の動的な計測法について検討した。さらに健常者の衣服内環境を24時間連続モニタリングすることにより日常生活時の身体活動と精神活動の変化に伴う衣服内温湿度の挙動とその評価について検討を行った。 本モニタリング手法を用いた計測結果から、健常者の日常生活時の衣服内環境は着衣の通気抵抗や環境気温だけでなく身体活動と精神活動の影響を受けて大きく変動することがわかった。衣服内温湿度は身体活動による産熱や発汗に加え、精神活動や不快のレベルにも影響されると考えられた。また、寝たきりで自身では主観的要求の表現が不可能な人に対する本システムの適用について検討した。身体的・知的活動がほとんどみられない重度の複合障害を持つ寝たきりの重症心身障害児の衣服内環境について48時間連続計測を行ったところ、健常者と同様の衣服内温湿度の挙動が観察された。これより、健常者だけでなく障害者においても衣服内環境の変動が精神的ストレスやその度合いを客観化する指標となり得ることが示唆された。本研究にて衣服内環境の長時間連続計測法が確立され、これにより着心地のダイナミックスな評価が可能となった。
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