研究概要 |
我々は,離乳直後及び成熟期の雄ラットを用い,脳タンパク質合成速度がタンパク質栄養に依存していることを証明している。しかし,壮年期以降の女性においては,加齢・栄養だけでなく,女性ホルモン不足が,脳の機能調節に影響している可能性があり,女性ホルモンやタンパク質栄養が,脳の機能にどう影響するか示すことは,「脳機能と栄養」について全体像を理解する上で,大変意義がある。 そこで,本研究では,卵巣摘出による閉経モデルラットや成熟ラットを用いて、脳機能に及ぼす女性ホルモン様作用のある大豆イソフラボンと食餌タンパク質の量的・質的影響について、脳の各部位(大脳、小脳、海馬、脳幹)のタンパク質合成速度及びポリソーム形成を決定した。 脳タンパク質合成速度は,卵巣摘出雌ラットにおいて低下し,大豆イソフラボンであるゲニスタインの摂取により増加することを示した。5%大豆タンパク質食への制限アミノ酸の添加による栄養価の改善でも,脳タンパク質合成速度が増加した。脳の各部位のRNA濃度は,イソフラボンやタンパク質栄養の影響を受けず,単位RNA当りのタンパク質合成能力を示すRNA activityと脳タンパク質合成速度の間に正の相関を認めた。成熟ラットにおける大脳,小脳におけるポリソームの割合は,低タンパク質食,低栄養価タンパク質食摂取により減少した。 以上の結果から、卵巣摘出雌ラットにおいて、脳タンパク質合成速度がイソフラボンや食餌タンパク質の質的影響を受け、イソフラボン摂取により増加し、低タンパク質食への制限アミノ酸摂取により増加すること,本条件での脳タンパク質合成速度,RNA activityに依存していることが明らかになった。さらに,成熟ラットを用いた検討では,タンパク質栄養による脳タンパク質合成の変動における翻訳過程の重要性が示唆された。 本研究結果は,高齢者の脳機能を維持する上で,大豆イソフラボンなど食品成分とタンパク質栄養が重要であることを示しており,「脳機能と栄養」についての基礎的部分が解明されたと思われる。
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