本研究では、1.食品調理時における抗酸化物質の動態、及び2.生体内における抗酸化物質の新しい機能の探索の2点を主要課題として研究を進めた。なお、2.では、炎症反応の中心的なサイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)により誘導されるアポトーシス抑制作用に着目し、アポトーシスと関わりのある疾病を食物由来の成分により治癒・予防できる可能性を探るものである。 1.調理モデルにおけるビタミンCの消失速度に及ぼす他の食品成分の共存の影響 スープや煮物を想定した調理モデル系にビタミンC(アスコルビン酸、AA)と調味料を加えて煮沸加熱し、AAの消失速度に影響する要因を調べた。AAの消失反応は1次反応であった。AA溶液に調味料を加えて加熱すると、食塩はAAの減少を抑制したが、醤油やみそ、風味調味料を添加すると、添加濃度依存的にAAが減少した。醤油やみそを添加することによって酸素が速く消費され、その後、嫌気的な条件下で反応が進行することが示唆された。これらの調味料がAAの分解を促進する要因として、アミノ酸と鉄が関与している可能性が考えられた。 2.抗酸化物質が持つTNF誘導アポトーシスに対する抑制機構 TNFをアポトーシス誘導剤として用い、ヒト白血病細胞株U937でのアポトーシス抑制効果を評価したところ、ビタミンE(VE)のほか、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、N-アセチルシステイン(NAC)、2-メルカプトエタノール(2-ME)でもアポトーシスが40-60%抑制された。そしてグルタチオン(GSH)レベルを指標にして抑制機構を調べた。NACや2-ME添加群ではTNF刺激時のGSHレベルが有意に高く維持されていたが、VEまたはBHT添加群ではGSHレベルの変動は小さく、細胞内GSHレベルの変動で抑制効果のすべてが説明できるわけではないことが示された。
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