高齢化社会を迎え、生活習慣がその発症と進行に深くかかわっている生活習慣病の予防は、現在の日本が解決しなければならない最重要課題である。生活習慣病としては、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症等があげられるが、骨粗鬆症に代表される骨量減少もまた、生活習慣病の1つと考えられる。寝たきりの要介護の原因の2番目は骨折によるものであることが知られている。どのような生活習慣病、特に食習慣が、どのように骨に影響するのか。本年度は、飲酒習慣、エタノールの骨に対する作用を調べた。 ラットに体重1kg当たりエタノール1ml(A1)あるいは、2ml(A2)を投与し、24時間後に血液と大腿骨を採取し、血清と骨の骨形成マーカーであるアルカリホスファターゼ(ALP)活性、骨吸収マーカーである酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)活性、カルシウム(Ca)量、及び骨のヒドロキシプロリン(HyP)量を測定した。その結果、血清中のALP活性は、A1、A2群でそれぞれ対照群の約50%、40%に有意に減少した。血清中のTRAP活性は、エタノールによる有意な変化は認められなかった。大腿骨中のALP活性は、A1、A2群でそれぞれ対照群の約60%、50%に有意に減少した。大腿骨中のCa量もA1、A2群でそれぞれ対照群の約80%、70%に有意に減少した。エタノール投与群の大腿骨のTRAP活性及びHyP量には、対照群との有意な差異が認められなかった。即ち、エタノールはALP活性を減少させ、骨形成活性の阻害によって骨のカルシウム量の減少をもたらすことが、明らかになった。この実験結果は、清酒2合程度の一時的な飲酒でも骨形成の低下をひきおこす事を示しており、飲酒が骨量維持に対する危険因子であることを示すものである。
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