研究概要 |
魚肉や獣肉の加熱過程で生成するヘテロサイクリックアミン(HCA)は、変異原性・がん原性を有する。それらの中のいくつかのHCAが、還元糖、アミノ酸、クレアチニンより生成することが明らかにされてきた。我々はin vitroで、且つ、生理的条件(37℃、pH7.4)において、グルコースとフェニルアラニン、クレアチニンのメイラード反応により、2-amino-1methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine(PhIP)が、グルコースとグリシン、クレアチニンのメイラード反応により、2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]guinoxalim(MeIQx)が生成することを明らかにした。この結果は、人の生体内においてもHCAが生成する可能性を示唆するものであった。そこで、同じモデル系におけるHCA生成量と生体内の変動因子の関連を調べるために、S. typhimurium TA98を用いてAmes試験を行い、さらにLC/MSによる定量を試みた。グルコース、グリシン、クレアチニンの系では、溶存酸素濃度が上昇すると変異原性が低下する傾向を示した。一方、鉄イオンの添加により変異原性が上昇し、MeIQxの生成量と変異原性の間に正の相関がみられたことから、メイラード反応が促進されたものと推察した。しかし、グルコース、フェニルアラニン、クレアチニンの系では、PhIPの生成量と変異原性との間に相関がみられず、同時に別の副反応が進行しているものと考えた。グルコース、クレアチニンの系にメチオニンやプロリンを添加してメイラード反応を行ったところ、さらに高い変異原性が認められたので、現在、それらの化学構造を解析している。なお、各反応系に緑茶抽出物またはカテキン類を添加したところ、PhIP, MeIQx等の変異原性物質の生成が有意に抑制することを明らかにした。これらの実験結果は生理的条件下で進行する変異・発がん物質の生成が食品成分で阻害されることを示しており、今後、動物実験なヒトにおいて、それらの現象が観察できるか否かを検討することは、日本人の死因の第一位を占めるがん予防の面からも極めて重要であると考えている。
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