本研究は、食品に含まれる抗酸化物質の調理条件下における消長と変化を追跡し挙動を明らかにすることを目的としている。本年度は、香辛料の一種であるカレーリーフの主要抗酸化カルバゾール、mahanineの高温加熱下での油脂の酸化過程における挙動をHPLC分析によって追跡した。Mahanineは添加濃度を1μmol/5g油脂としたとき110℃で油脂の酸化誘導期を約8倍延長した。酸化過程でmahanineは徐々に減少し完全に消失した直後から油脂の酸化が急激に進行することがわかった。Mahanineの減少にともなって顕著に増加するmahanine由来の物質の生成は認められなかったことから、mahanineは高温下でも安定で、直接油脂のラジカル連鎖反応の開始を遅延しているものと推察された。以上のことからカレーリーフは油脂を使用した加熱調理においても抗酸化性が期待できると考えられる。次に、ポピュラーな香辛料であるショウガの調理条件における抗酸化性の変化を主要抗酸化活性成分である[6]-gingerolを指標に追跡した。おろしたショウガを40メッシュの濾し器でショウガ汁と残渣に分けたとき、ショウガ汁の抗酸化力はもとのおろしショウガの約3分の2であり、[6]-gingerolも3分の2がショウガ汁、3分の1が残渣に分布していた。おろしショウガの抗酸化性の室温での経時的変化を調べたところ、数時間では抗酸化力にも[6]-gingerol量にも顕著な変化は現れなかったが、24時間後では抗酸化活性が有意に低下した。一方[6]-gingerol量には有意な変化が認められず、時間の経過とともに[6]-gingerol以外のショウガ中の抗酸化物質が減少しているものと推察した。ショウガのみじん切りの炒め実験では、3分間の炒め操作でショウガは加熱前と同じ抗酸化力を維持しており、[6]-gingerol量にも変化が認められなかった。したがって短時間の乾式加熱調理では[6]-gingerolは安定で抗酸化性は十分に維持されることが明らかとなった。
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