近年、心筋梗塞や脳血栓などの血栓症およびガンが急増し、社会的に重大な問題となっている。そこで本研究では、種々の発酵食品の生理活性物質を検索し、薬用効果を明らかにすると共に、生理活性物質を有する微生物を用いた新規な発酵食品への応用を試みた。したがって、本研究の主目的は血栓症およびガンに対して予防効果を示す健康・機能性食品の開発にある。 まず、世界各国の発酵食品の抗トロンビン活性および線溶活性等について調べたところ、味噌やチーズなどに顕著な抗トロンビン活性および線溶活性が認められた。 従来、アルコール飲料の製造には酵母がアルコール脱水素酵素を持っていることから使用されている。同様に、チーズの製造には乳酸菌と凝乳酵素が使用されてきた。さらに、味噌の製造では麹カビ、耐塩性乳酸菌、耐塩性母がそれぞれアミラーゼとプロテアーゼ、乳酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素を持っていることから使用されてきた。本研究では、これらの酵素をきのこ(担子菌)が持つことを発見し、担子菌の発酵力を用いた場合においても、ビール、ワイン、チーズ、味噌等を製造することが可能であることを見出した。そして、きのこで生産したアルコール飲料やチーズ、味噌などは、β-D-グルカンを含むと共に、線溶活性や抗トロンビン活性があり、免疫力を高め、ガンや心筋梗塞、脳血栓などの血栓症の予防にもつながる可能性が示唆された。 ガンや血栓症の患者に対しては、患部の切除やバイパス手術などで応急的に処置しているにすぎず、現在の医学では根本的な治療は不可能である。したがって、医食同源・予防医学の観点に立ち、日常の食生活から、これらの疾病を予防することが大切であり、今後も健康・機能性食品の開発についての研究が必要である。
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