DHAは二重結合を六個含む構造上、非常に酸化しやすい。しかし我々は、これまでにDHA摂取による過酸化脂質の生成は、組織総脂質の脂肪酸組成から算出されるPeroxidizability index(P-index)から予測されるほどには高まらないことを明らかにした。その理由として、(1)アスコルビン酸(AsA)やグルタチオン(GSH)の生成増加に伴うトコフェロキシルラジカルの還元・再生反応の亢進、(2)ホスファチジルエタノールアミン(PE)へのDHAの取り込み亢進に伴うDHAの酸化安定性の向上が示唆された。本研究ではこれらの仮説を検証しようとした。 はじめに、AsAを生合成できないODSラットを用い、AsAの投与レベルやGSHの生合成に必要なメチオニン(Met)の投与レベルを変化させて検討した。その結果、通常の生理的レベルのAsAあるいはMetはDHA摂取による過酸化脂質生成を抑制するものの、高レベルのAsA、あるいはMetを投与しても過酸化脂質の生成とビタミンEの消費を一定レベル以下には抑制することはなく、AsAとGSHによる抗酸化能の増強には限界があることが示唆された。一方、低レベルのMetを投与し、過酸化脂質生成が亢進している条件下では、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)活性が増加していることから、GSTが関与する解毒・排泄機構が過酸化脂質の生成増加を抑制していることが示唆された。 次に、DHAはPEに優先的に取りこまれること、細胞膜ではPEの顕著な非対称性が見られることに着目し、生体膜モデルであるリポソームを用いて、リン脂質二重層におけるPEの分布とPE中のDHAの酸化感受性との関係について検討した。その結果、脂肪酸鎖容積の異なるホスファチジルコリン(PC)を用いてDHA含有PEのリン脂質二重層における分布をコントロールすることに成功した。このリポソームの外層側から水溶性ラジカル発生剤(AAPH)を作用させ脂質過酸化反応を誘導させたところ、外層に多くPEが分布したリポソームはDHAの残存率が高く、酸化に抵抗性を示すことを見出した。
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