研究概要 |
ラセミ化年代測定法は、骨や貝殻など生物由来の試料に含まれるアミノ酸が生物の生命活動の終了後極めてゆっくりとL体からD体へと変化する現象を利用する方法である。タンパク質構成アミノ酸のうちの特定のものを選択してこの現象を追跡すれば、一説には500年から100万年の範囲の年代が測定可能とされている。しかしながら、ラセミ化は化学反応の一種であり温度依存性であるために、絶対年代の測定は年代既知の同一遺跡で採取された別の試料の入手、または未知試料の温度履歴を知る必要がある。 本研究では、まず放射性炭素法により年代が既知の貝殻試料を加熱することによって人為的にラセミ化を進行させた後、ラセミ化速度定数を測定した。加熱温度を数段階変化させて測定するとアレニウスプロットを引くことができる。この近似直線から当該試料の温度履歴を推定したところ妥当と思われる値が得られた。つまり、^<14>C年代が5,150年の縄文時代中期の化石より得られたアレニウスプロットからは平均埋没温度は15.0±0.2℃の値を得ることができ、古環境温度の測定においても高精度な測定結果を示した。 また、今回の研究では、これまで100mgは必要であった一回の測定試料量を30mgにまで減じることができた。これは、処理段階や測定途中での汚染を避けるために、化石の洗浄後は加熱、加水分解などを移し変えずに同一サンプル管内で行った。そして、GCまたはHPLC測定時のみ専用のバイアルに少量採取して測定を行った。その結果、さらに測定精度の向上がみられた。
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