研究概要 |
アミノ酸ラセミ化年代測定法は、放射性炭素法やカリウム-アルゴン法の測定領域外である500年〜2000年や5万年〜数十万年の年代範囲をカバーできるユニークな方法として知られている。しかしながら、ラセミ化反応は温度依存性であるために単独では相対年代測定にしか用いられない。絶対年代の測定にはその試料の温度履歴を入手するか、あるいは年代が既知の同一地域で採取された別の化石を標準試料として必要とする。ラセミ化は可逆の一次反応であり、反応速度と温度の関係をアレニウス式で表す-ことができる。そこで放射性炭素法で年代が既知の試料を用い、人為的に加熱を行うことによってラセミ化を進行させ、作成した貝殻化石のアレニウスプロットより古環境温度を推定した。貝殻は、90℃から170℃まで7段階に変化させて一定時間加熱する。貝殻中のタンパク質アミノ酸は、手順に従って分離、精製した後、AspのD/L比率をガスクロマトグラフィー(GC)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。Aspのラセミ化速度定数と絶対温度の逆数の関係をアレニウス式に従ってプロットしたところ、その最小二乗近似直線はバラツキも少なく、相関係数が0.998の良い直線性を示した。この直線を外挿したところ、大曲輪遺跡(名古屋市)発掘の年代が5,100±20B.P.の巻き貝化石の平均気温は15.0±0.2℃の値を示した。日本各所に散在する遺跡において、古環境温度データを得ることは、ラセミ化法の絶対年代推定への可能性を前進させ、信頼性向上に役立つと考えられ、将来の発展が期待される。
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