研究概要 |
本研究の目的は,命題の構成的体系化を軸として、中学校数学科の論証指導カリキュラムを抜本的に再構築することである。この目的の達成に向けて,平成13年度と平成14年度には主に次の点に取り組んできた:「命題の構成的体系化」の理論的整備,「命題の構成的体系化」に基づく論証指導カリキュラム構築の基本方針の確定 上記の主な実績をふまえ,平成15年度には,次の3点について成果をあげた。 (1)中等学校数学の図形領域カリキュラム開発研究の方向性の検討 中等学校数学図形領域のカリキュラム開発研究の取り組みと成果を,3つのアプローチ(図形・幾何,証明・論証,テクノロジー)に応じて整理した。そして,命題の局所的な組織の自律的な構成(「命題の自律的な組織化」)を概念規定し,カリキュラム開発研究において,命題の自律的な組織化が一層積極的に意図される必要があることを指摘した。その上で,命題の自律的な組織化の活動として次の諸活動の必要性を考察した:命題の組織を全体的に認識する活動,命題の組織を拡充する活動,組織の基礎命題を練り固める活動。 (2)「命題の構成的体系化」に基づく論証指導カリキュラムの認識論的基盤の考察 非ユークリッド幾何成立過程における高度な経験主義には,認識論的視点として,幾何学による諸空間の構造の把握,観察されるべき公理の最小性が含まれる。これらの視点から,中等学校数学図形領域のカリキュラムにおいて次の諸活動が必要である:必要観を伴って,既知の命題を基にして命題を局所的に組織化するとともに,実験・実測などによって命題を推測・検証する;局所的準体系において演繹の基になる命題の正しさを探る。 (3)経験的アプローチによる,命題の全称性の確立に関する生徒の認識をとらえる枠組みの構築 生徒の認識における,実験・実測による全称性の確立を正当化する傾向性と,疑問視する傾向性の間の認知的に不均衡な状態を「内的ゆらぎ」として概念規定した。そして,実験・実測による命題の全称性の確立にかかわる3つの視点を設定し,視点の適用条件と視点内における内的ゆらぎの中間的な様相の存在可能性に基づいて,5つの代表的な様相と中間的な様相が存在可能な6つ関係を特定し,内的ゆらぎをとらえる枠組みを構築した。
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