研究概要 |
科学者の実践において「学習」がどのようなかたちで生起するのか,ハイブリッド・ライスの研究開発事例の調査は次のことを明らかにした.同研究開発のプロセスでは,伝統的フィールド研究の育種部門と細胞融合や遺伝子組み換え操作を行うバイオテクノロジー部門が,共通の目標を目指して相互の研究テーマ・内容・方法を形成し方向づける関係を作り出した、育種サイドの品種改良研究とそこで顕在化した問題がバイテクサイドにおいて追求すべき技術や特定すべき遺伝子を焦点化させ,逆にバイオ技術の導入が育種の仕事を変化させるという形で相互の実践が構成された.異質の研究ネットワークが相互の境界を可視化しつつ相互の実践を作り合った.また遺伝子の特定も様々な対象や活動との関係のなかで方向づけられた.遺伝子の特定はさらに活動やネットワークを再編し,新たな社会的エージェントを形成した.こうした一連の関係性のなかに科学者の学習は生起している. また,ひとたび遺伝子が特定されて種子や品種が新たな関係,ネットワーク,同盟を形成する社会的エージェントになると,その遺伝子は様々な活動のネットワークをリンクするポイントになる.元来,人々の活動との関係のなかで特定されたにも拘わらず,その遺伝子はある実体をもつかのように扱われ,活動のネットワークを逆に支配するようになる.このような遺伝子の物象化によって人々の活動やネットワークは見えにくくなる.科学者は実践を通してこのブラックボックス化した遺伝子の背後にある活動やネットワークを可視的にする.ここにも科学者の学習が生起している.
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