研究概要 |
本年度は,測定した熟達者の毛筆習字技能を学習指導に役立てることおよびその効果について重点的な研究を実施した。特に,熟達者の毛筆作業中のデータを加工し半紙に印刷した教材用半紙(前年度開発;特許申請中「特願2002-337349」)の効果と改善点を知ることを主眼に,毛筆習字を習い始めたばかりの小学3年生を対象に実験を行った結果は,基本的な習字技法である「おれ」や「払い」に教材の効果を認めることができた。また「日」を題材として字形の整い具合を比較した結果も,教材を使用した方がそうでない場合よりも有意に優れることがわかった。なお,データが印刷された半紙に直接習字を行うことについては,当初やや戸惑う学習者もみられるが,学習に支障を来すほどではない。むしろ,教材用半紙の効果が強すぎて「とめ」などが過度に強調される等の例がみられ,効果を抑制する方向での工夫も必要と考えられる。 つぎに,教材用半紙と併せて使用する熟達者の作業データの表示は,今回コンピュータに保存したデータをスクリーンに拡大して投影を行った。筆圧の変化や筆の動きを動画として再現したことにより,学習者は毛筆の動かし方に対する具体的なイメージが持てたようである。毛筆作業中の姿勢や筆の傾き等,多くの要素を排除し,筆圧と動きに限定したことが,観点を明確にし,理解を助けたと思われる。この点については,さらに研究を進める予定である。 遠隔地間学習システムを達成する前提として求められるインターネット等を通じた熟達者のデータ入手,およびこれの具体的な利用方法については,まず教材用半紙の効果がある程度確認できたことにより利用法面での方途はなったと考えられる。次年度は,熟達者の毛筆データをデータベース化する方法およびこれをインターネット等から入手する方法について検討する予定である。
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