1)難聴の障害特性の把握 聴覚障害者の難聴の程度と特徴は多様であり、テレビの音量が上がりすぎて家族に迷惑がられる、初めて購入した補聴器が役立たないなど、難聴者の多くが遭遇する困難点は、個々の難聴者の聞こえの特性が把握されないままに、適切な聴覚補償手段が講じられないことに起因する。平均聴力レベルを基に補聴器の処方を行おうとする従来のフィッティング理論には、さらに、年齢に合った言葉による聞こえの評価に併せ、生活様式や音環境の評価と聴覚活用能力の評価を加える必要があることを明らかにした。 2)補聴援助手段の多様化への対応 近年は、様々なタイプのデジタル補聴器が出現した。さらに、我が国の人工内耳装用者は3000名にのぼり、最重度の聾者が人工内耳手術を受けることにより音声の識別が可能になるなど、補聴手段の選択肢が拡大したことを明らかにした。また、手話や字幕提示など目による情報補償環境の改善が大きく進歩し、多様な聴覚補償方法の選択が可能な状況となったことを明らかにした。 3)生活環境評価の重視 補聴援助手段が多様化したにもかかわらず個々の難聴のハンディキャップが十分に軽減されない原因には、難聴者個人が、どのような生活スタイルの中で、どのような音環境に囲まれ、どのような聴覚補償の必要性と意欲をもっているのか、についての評価法の不備があることを明らかにした。 4)聴覚活用能力評価の重視 聴覚を活用し学習・生活に役立てる「聴能」は「聴力」と同一ではなく、聴力が悪いにもかかわらず聴能を発達させた難聴者の事例、また一方、聴力が良いのに聴能が発達しない事例を収集し、「聴力」だけでなく「聴能」の発達レベルを評価する必要があることを明らかにした。 5)補聴援助手段の選択・調整・適応のための支援 難聴者や高齢者の生活様式、生活音環境、聴覚活用能力(意欲)の評価に基づく適切な聴覚補償方法が見出された後には補聴援助手段(デジタル補聴器、人工内耳、手話、字幕など)の選択・調整・適応が円滑に行われるための援助が必要であり、そのための多様な補聴援助機器や手段の活用支援のための指導プログラムと解説資料を作成した。
|