本年度は、「へき地小規模校のための造形支援プログラム」運営し、その結果を考察した。本プログラムの対象となった学生は、北海道教育大学旭川校教員志望学生1年生から4年生、15名であり、フィールドとして北海道内の小規模へき地校3校と北海道内美術館1館にてプログラムを運営した。考察結果は以下の通りである。 平成14年度では、J.レイヴらの正統的周辺参加理論を援用して、教員養成プログラムを検討した。正統的周辺参理論は、従来から考えられていた教員養成の学習目標に新たな視点を加えるものである。それは、教員養成とは、教員志望学生が教師コミュニティに参加する杜会的実践行為であるとする視点である。この視点は教員養成の学習目標を、「いかに教員としての身体、教員としての頭脳を生成させるか」から、「いかに教員コミュニティ(共同体)への参加の度合いを高めるか」へと移行させる。そこで教員志望学生が小学校への造形的支援を通して「教師コミュニティ」へ参加するプロセスを示した。造形的支援とは小規模小学校での学芸会(学習発表会)に使われる背景画制作である。この制作のプロセスは、教員志望学生が様々な要素(依頼演目、関連資料、用具、材料、児童が演目に持つイメージ)を集め、検討し、再構成することで造形的に「可視化」するプロセスであるといえる。可視化の段階はいくつかに分かれているが、全体の展望をもって制作するというよりは、局所的に問題・課題を解決し「可視化」する局所的な開示であった。制作した学生は、様々な局所的な開示をおこなって作品を完成させたが、そのプロセスは異なっていた。その中では、以下の3グループが確認された。(1)教師コミュニティ参加グループ、(2)表現者コミュニティ参加グループ、(3)閉鎖的局所組織化グループ、であった。本年度では多重成員性を抱えた教員志望学生は、逸脱行動を取りながらも、最終的には共同体間で合意された目的を果たしたこととを明らかにした。しかし、その後、両共同体の対応には大きな違いがでた。A小学校事例では、来年度もプログラムは継続されることとなった。しかし、学芸会へは参観者ではなく参加者として関わってほしいとの依頼があった。一方、B博物館事例では、教員養成プログラムとしての面を削減して、今後は自由な市民ボランティアとしての学生個別の参加を期待したいとの連絡があった。変容部分が強調されたこととなる。 両者の違いは、共同体の求める成員性の違いにあると考えられる。本事例では参加者はその成員性を対面する矛盾や葛藤の解決プロセス上で造形的に「可視化」した。その成員性により、共同体は再生産・変容することとなる。
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