音楽経験の違いが、歌の記憶などの音楽行動の発達にどのように関係しているのかを明らかにするために、音楽の聴取経験が古い時代の歌謡曲に限られている年輩者に対する歌の記憶実験を行った。実験では、比較的歌い易いとされている最近ヒツトした曲が用いられた。実験に参加した年輩者たちは、最近のJポップの歌を歌う機会はほとんどなかった。被験者が聴取経験の少ない歌をどのように記憶するか、その過程が調べられた。 実験の結果、いずれの被験者も実験曲を記憶して歌うのに困難を示し、さらに同じパターンのリズム型に記憶違いが多かった。楽曲の分析的考察の結果から、比較的歌い易いとされている実験曲も、音楽のリズム構造は古いタイプの歌謡曲とは根本的に違う事が明らかにされた。最近のJポップの典型であるこの曲は、リズムが拍節構造からはみ出る事が頻繁に起り、この構造的な特徴が記憶を妨げていることが示唆された。ほとんどの被験者が音程は正確に記憶する事ができたが、リズムを記憶するのには大きな困難を示していたのである。 今回は音楽の聴取経験に焦点をあてて研究を行ったが、実験の結果より、音楽行動の発達は、日常生活でマスメデイアなどから耳にしている音楽のジャンルの違いによっても多きく影響を受ける事が示唆された。すなわち、音楽行動の発達は音楽の訓練や練習だけでなく、日頃積み重ねられている音楽経験の種類によっても支えられているのである。
|