マスメディアを中心とした日常生活での音楽経験が音楽行動の発達にどのように寄与しているかを調べるために、異なる音楽経験を持っ若者と年輩者それぞれ5人の参加者に対してインタビューと歌の記憶実験を行った。日常生活における音楽経験の調査は、音楽行動を質と量の2つの側面から明らかにする事を目的として、準構造化インタビューによって行った。その結果、音楽行動の量的側面については、年代の異なる2つのグループの参加者の間に差は見られなかった。一方、音楽行動の質的側面においては、2つのグループの間に差が見られた。従来の研究でも明らかにされていたように、若者グループと年輩者グループでは日頃良く聴くポピュラー音楽のジャンルが異なっていた。さらに、若者グループは日常生活で好きな曲を練習するなど、積極的な歌唱行動が多く見られたのに対して、年輩者グループではこのような行はあまり報告されなかった。歌の記憶実験においては、記憶の成績とその方法の2つの面において若者グループと年輩者グループの問に差が見られた。若者グループは年輩者グループにくらべて記憶の成績が良く、また記憶の方法においても年輩者グループよりも多くの記憶方策を用いている事がわかった。以上の結果より、日常生活での音楽経験の違いが音楽行動の発達に影響を及ぼしている事が示されたつまり、若者は年輩者に比べ日常生活の中から高い音楽的技能を身につけていることが示された。さらに、この技能は、日常生活における聴取経験の差のみからきているのでは無く、日常生活における歌唱行動の差にも要因があることがわかった。若者は日常生活で現代のポピュラー音楽をよく聴いているだけではなく、それらの歌を歌えるようになるために繰り返し同じ曲を練習していた。そして、こうした積極的な歌唱行動が若者たちの高い記憶能力や多様な歌の記憶方策の獲得に寄与していたのである。
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