本研究の目的は、作文の過程を学習者論的に意義づけるために、学習者のこの過程での「表現意識の発生点」と「その展開の諸相」を調査研究(記述的研究)して、この過程での学習者の充足感の在りかを追及することである。具体的には、発達段階に応じた表現意識の発生とジャンル選択との関連性の基本的スタイルを捉えることと、同時に発生している学習上有意義な認知的葛藤を記述することで「充足感の分析」を行うことである。 本年度の研究計画はジャンルやディスコース意識の不十分な小学校4年生のデータを同一クラスで年間2回(半年後に)収集し、これを比較分析することであった。実施した学校は茨城県友部町立友部小学校4年3組(6月25・26日計4時間、12月17・18日計4時間)である。計画ではこれをさらに別の4年生クラスで実施して、クラス間の差異を踏まえてより一般的な知見を得る予定であったが、依頼予定の公立校の都合で、次年度に実施することになった。そこで、これに代えて14年度実施予定であった中学校1年生のデータ収集を前倒しして実施した。実施校は秋田県西仙北町立西中学校1年A組(2月25・26日)である。 研究の結果、次のことが明らかになった。1.4年生はジャンル選択意識やディスコース意識が不安定な混同期にあるが多様化傾向が発生する段階にあり、研究の基礎データとして興味深い実例が多い。2.個人の事例研究から、「テクスト生成過程」で授業コミュニケーションの刺激(他者とのかかわり)が多様なかたちで有意義に作用し、ジャンル意識・ディスコース意識の変容が「学習」として評価できるものになっている。3.この結果、学習者の一定の充足感が認められる。この成果の一部は長崎大学で開催された全国大学国語教育学会(10月20日)で発表した。なお、2月に中学校で収集したデータについては現在分析中である。
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